静かにしっとりと佇む銀の街/島根県大田市
大田という地名は知らなくても「石見銀山」なら知っているはず。江戸時代に最盛期を迎えた巨大銀山は2007年に世界遺産に登録された。
出雲と背中合わせの神話の世界と日本海と中国山地に挟まれた豊かな自然、そして世界にも影響を与えた豊富な銀がもたらす富。大田はこれらの影響を受けて発展し、現在はその遺産を生かした観光地となっている。
世界遺産だって知ってた? 「石見銀山」
日本は歴史上一時期、世界における銀産出の3割以上を占めていたとわれ、日本における銀の大半はこの石見銀山から掘り出されていた。
多くの神話が残り自然豊かなこの地の銀は、銀を求める世界中の国々に知られていた。世界各地で加工されている銀はここから搬出されていたのかもしれないのだ。その量はスペインがボリビア発見した世界トップクラスのポトシと肩を比べるというから驚き。
そんな石見銀山だが、明治にはほぼ掘り尽くしたとされるが、14世紀から始まっていた銀掘りは遺跡として、その後から近代まで続いた大規模な銀山採掘で残された数々の跡は21世紀に入って整備されて、歴史観光地となった。
石見銀山の代表坑道「龍源寺間歩」へ進入
一帯には700もの坑道があるといわれるが、現在進入できるよう整備されているのはほんの一部。現地は少々立地が悪く、30分程度の歩き、またはレンタル自転車などでのアプローチとなる。通り道はレトロな雰囲気の残る街並みと林なので、遠いが気分は悪くない。
もっとも有名なのが「龍源寺間歩」。意外にも広い坑道内には、古いノミによる手掘りの跡が残り、壁の固さからその労力を想像して絶句。
海外の鉱山観光のように、トロッコに乗って奥までとか、ガイドと這いつくばって探検といったツアーはまだないようだ。あくまで、真面目にありのままの銀山を目にするための遺跡と考えよう。
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「石見銀山世界遺産センター」で歴史のお勉強
銀山そのものは実地学習・フィールドワーク。実際の詳細情報を得るには、ここに立ち寄るのが一番手っ取り早い。「石見銀山世界遺産センター」では、銀山の歴史や記録を目で見、耳で聞き、さらには触れることで体感できる展示もある。
新しく整備されただけあり、内容は充実していてわかりやすい。銀山坑道まで歩いていくなら、ここの駐車場に車を停め、予習をしてから出かけるといいだろう。
大森町に今も残る繁栄のあと
石見銀山周辺を徒歩や自転車で散策すると、必ず通るのが大森町。ここは映画かドラマの大がかりなセットのごとく、古い家屋やどこに付随する道具類などが残っている。
大森の街の魅力は、それらのすべてが作り物ではなく、本物で、所有者や町が大切に守り、一部が現在も使われているところにある。
今風のお土産物屋などはほとんどなく、落ち着いた雰囲気のカフェや売店があり、銀製品を扱う店もあるので、散策途中の腹ごしらえや記念グッズの購入にのぞいてみたい。
天井の鳴き龍が息を殺して拍手を待つ「城上神社」
大森の街を抜けたところにある、なかなか立派なサイズの神社。人の気配のほとんどない静かなたたずまいの拝殿内部ではお宝、天井に色彩で描かれた鳴き龍が待っている。
古く、傷みもあるが、拍手に反応するキーンという鳴き声は健在。自由に入って参拝し、鳴き龍の声を聞くこともできるが、観光っ気がなく、戸締りされていることもあるので、そこは運次第だ。
極彩色のヤマタノオロチが登場「龍御前神社」
「龍御前神社」では毎週末、地元住民による神楽が行われている。石見神楽と呼ばれ、多くの演目を持つ本格派。演じているのは、主に子どもたちだが、その技には感動する。中学生くらいの演者がキレキレの動きを見せるかと思えば、神楽独特の伴奏演奏も小学生から高校生が担当している。
演目はあらかじめ発表されているので、訪れるなら確認してからがおすすめ。目の前に現れる巨大なヤマタノオロチとの出会いは間違いなく旅の一番の思い出になるはずだ。
石見銀山で落とした命の数だけ…「五百羅漢」
大森にある羅漢寺では入場料500円で五百羅漢に会える。洞窟内にいるさまざまな表情・姿勢の羅漢さまたちは人間味があふれている。銀山で働き、そしてなくなった人々の霊を供養するために造られた。
見知った顔に出会えることも多いという五百羅漢。一つずつ、じっくりと見てきたい。
圧倒的な迫力の社殿を持つ「物部神社」
古代の豪族物部氏を祀った立派な社殿。観光客の姿の少なさがもったいなく思えるほど。
春日造りの立派な拝殿には圧倒されるが、一番の見どころはおそらく手水石。砂金を含むという珍しい石を使っていて、金運・幸運を授けてくれるそうなので、見逃すのはもったいない。また、この水も神水。手と口を清め、味も確認してきたい。
銀山労働者の安全を見守ってきた「佐毘売山神社」
龍源寺間歩の近くにあるが、長い階段を見て素通りしてしまうことも多いスポット。階段でも山道のような参道でも、たしかに急なうえ息が切れる距離だが、登ってみると、もったいないほど荘厳な神社がひっそりと佇んでいる。
昔、坑道内に入る前、労働者たちが立ち寄って安全祈願をし、また一日の仕事を終えたときに、お礼参りをした神社とのこと。彼らの仕事場である山の神様を祀っている。
旧家跡でお宅拝見~熊谷家・河島家・金森家
大森がもっとも栄えた江戸時代に建てられた屋敷がいくつも残り、それが今も現役だったりする。
「熊谷家」は、資料施設として有料公開されているものの一つ。大きな商家で地下蔵を含む5つもの蔵を持つ。当時の1年を通じた生活の様子がわかる展示が興味深い。
「河島家」は銀山役人の家。まるでついさっきまで、ここで食事をしていた、誰か客をもてなしていた、そんな雰囲気のまま資料館として開放している。
「金森家」は、石見銀山を訪れた役人たちの宿。今も所有者が住まいとしているため、外観のみの観光となる。
ほかにも、柳原家、阿部家、内藤家などが点在し、大いに繁栄した当時の暮らしをしのぶことができる。
足の裏でキュキュっと鳴る鳴り砂の「琴ヶ浜」
よく乾いた砂浜を素足で歩くと、キュイキュイと小さな生き物の鳴き声を発する鳴り砂海岸がある。
漁村近くの自然のままの美しい浜で、水遊びにも最適。夕方の夕陽時もロマンチックでよい。
近くの「鞆ケ浦」は、今でこそ静かな入り江だが、当時は銀の積み出し港として活躍していた。ここは世界遺産に含まれているものの、人の気配はなく、世界一訪れる人の少ない世界遺産かもしれない。
高原リゾートで温泉も楽しめる「三瓶山」
登山、ハイキング、スキーなどを楽しめる山。人工的な手がほとんど加えられていない自然のままの森は季節ごとの色の移り変わりが見事。
過去の噴火によってできた池ではボート遊びや釣りを楽しめるほか、近くに豊富な湯量を誇る三瓶温泉もあり、炭酸ガス効果でホカホカと温まるもの、ラドン系、鉄分を多く含む湯など、湯質も豊富でおもわず日帰り入浴をハシゴしたくなる。
まとめとして
銀山跡だけでなく、街並みや港など14もの歴史的資産を組み合わせた世界遺産「石見銀山」。ロケーションと地味さなどから、今はまだ訪れる人は多くない。しかしご紹介したように十分な観光資源を持つ以上、今後注される可能性は高い。
人が少なく落ち着いた雰囲気を味わえるのは今のうちかもしれない。早速計画を立てて、大田に向かいたい。