タイに行くと多くの人の体にタトゥーが入っているのを見かけることがありますが、このほとんどが「サクヤン」と呼ばれるタイの伝統的なタトゥーなのです。
サクとは「刺青」ヤンは「魔除け」「護符」を意味するもので、「魔除けの刺青」のことを指します。
デザインには幾何学模様やクメール語やパーリ語が使われたり、ゾウやトラをモチーフとしたデザインのものが多くあり、主に下級階層の人たちによく見られるもので、魔除け、運命を変えたい、神秘的な力が宿る、と信じられ人々の体に彫られてきました。
タイでタトゥーを入れている多くの人は、自らの願いや信仰心の強さが大きく反映しているといえ、そこが日本タトゥーを入れている人との大きな違いでもあります。
アジャーンと呼ばれる彫り師
サクヤンは神聖なものなので施術と施術後に必ずお祈りをしなければなりません。
そしてタトゥーを入れるときに一般的に使われるタトゥーマシーンではなく、長さ50cmほどのメタルロッドを使い手彫りで入れるというのがサクヤンの条件となっています。
サクヤンを入れてもらうにはアジャーンと呼ばれる仏教を学び、読経し儀式を執り行うことができる人か、お寺に行って僧侶に入れてもらうしかありません。
なぜなら施術後のお祈りで読経して初めて、体に刻んだサクヤンに力が宿るとされているからです。
宗教的な儀式ともいえるサクヤンは図柄、場所、など自分で選ぶことは一切できず、アジャーンによって全て決められます。
しかし時代とともに変化しているそうで、場所によっては自分で好きな図柄を選び、好きな場所に入れることができます。
ハリウッドスターが入れたことで有名に
ハリウッド映画で多くの主演を務め、第一線で活躍してきたアンジェリーナ・ジョリーを知らない人は少ないことでしょう。
彼女の左肩甲骨に入っている縦五列文字は「サクヤンハーテウ」といって戒律が書かれているのです。この戒律を守ることによって成功、幸運、守護といった力が宿り、戒律を破ると力は発揮されないといわれています。
実際にタイの寺院に訪問してサクヤンを入れたことが世界で話題となり、一躍有名になりました。
そしてタイ人女性の中でもサクヤンを入れる人が増えたり、外国人観光客がサクヤンを入れてもらうために足を運ぶなど瞬く間にサクヤンを入れる人が増えたのです。
ちなみに彼女の腰に入っている虎のタトゥーもサクヤンで逆境を乗り越える力、危険から身を守る力があるとされています。
サクヤンを入れたものたちが集まる寺院「ワット・バンプラ」
バンコクの西に位置するナコーンパトムにはサクヤンで有名な「ワット・バンプラ」という寺院があり、毎年3月になると1000万人を超える人が集まり、奇妙な儀式が行われます。
あまりに衝撃なため、テレビ取材が来るほどで初めてこの光景を目の当たりにした人は驚きで言葉を失うことでしょう。
この儀式では自分の体に彫られている図柄に自分自身が憑依するというもので、虎、鶏、猿、象などに憑依した人たちが奇声を発している姿を見ることができます。
サクヤンを入れる人の多くがサクヤンの力を強く信じて信仰しているため、トランス状態に入ることができるのだといいます。
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トランス状態で寺院を疾走
それぞれの体に彫られた図柄に憑依した参加者たちは、奇声を上げながら寺院の中心を目指して疾走しています。
そんな彼らを落ち着かせるために用意されたボランティアの人たちが、憑依した彼らの耳の裏を触ることで落ち着くといわれています。
この光景は1人や2人ではなく、何十人、何百人にもなるため、儀式当日の寺院はカオス状態となっているのです。
儀式前夜になると寺院では大音量の音楽が鳴り響き、たくさんの人がサクヤンを入れてもらおうと集まるため、僧侶たちは夜通しでサクヤンを彫り続けるのです。
なぜ彼らがサクヤンを儀式前夜に入れたがっているのかというと、前夜に入れたサクヤンには力が宿りやすいと言われているからなのです。
サクヤンを入れるときの注意点
タイではタトゥースタジオが多く存在しますが、本物のサクヤンを入れたければ事前にアジャーンかどうかを調べる必要があります。
彼らはタトゥーアーティストであることに間違いはありませんが、サクヤンを学んでいるわけではないのでサクヤンの図柄を見よう見まねで入れたりなんてこともあります。
場所によっては外国人相手に商売をしているところもあるので、偽物のサクヤンを入れてしまったなんてことにならないように気をつけましょう。
そして衛生面に関してですが、インクや針は使いまわしが多いため感染症にかかってしまうリスクも予測されるのでよく考えてから入れることをオススメします。
サクヤンの図柄
- ハーテウ
アンジェリーナ・ジョリーが入れたことで有名になり、大勢の人(特に女性)が入れるようになりました。
ハーテウとは五列という意味があり、5つの戒律が書かれているのですが、その戒律を守ることで願いが叶ったり、幸運を手にすることができるといわれています。
- シャーペット
ハーテウと対になっているサクヤンで同じように五列からなるサクヤンです。ハーテウを左の健康診断に入れたなら、シャーペットを右の肩甲骨に入れてバランスを保つのが良いとされています。
- ルーシー
サクヤンの神様として知られ、老人のような姿をしています。物事が上手くいかないときや困っているときに誰かが救いの手を差し伸べてくれるという意味があります。
- プラ・ピッカネート
ガネーシャ像をモチーフにしていて、あらゆる障害を乗り越えて何事の願いも叶えてくれる神として崇められています。ヒンドゥー教の神の一人であり、インドでもとても人気があり新しいことを始めるのに良いとされています。
- スア
虎の魂が宿るとされていて、逆境を乗り越える力、危険から身を守る力を手に入れることができるとされています。ハーテウなどと同様にとても人気のある図柄のひとつでもあります。
まとめとして
人口の90%以上が仏教で寺院は約3万、僧侶は約40万人といわれるタイでは、仏教は人々の生活に深く関わりがあります。タイを旅すれば、あちらこちらでお祈りをする人を見かけることができることでしょう。
それほどタイ人の信仰の強さが深いということが分かることと思います。
またワット・バンプラで行われる儀式で憑依される人たちは心から幸せになりたいと願っていたり、神秘的な力を手に入れたいと思っているからこそトランス状態に入ることができるのでしょう。
これを日本人である私たちに憑依することができるかといわれたら想像できませんよね。
憑依することは難しくても、文化や伝統、歴史を知ることはできるはずです。その国の文化や歴史を知っていれば旅先で出会った地元の人たちと分かり合えることもあるかもしれません。
興味があれば一度、タイに訪れて伝統的なタトゥー「サクヤン」に触れてみることをオススメします。