オランダといえば、風車とチューリップ。
誰もが同じくイメージするだろう。しかし現実には、チューリップ畑はかなり田舎へ行かなければ見ることがかなわず、花の季節は短い。絨毯のように地面を埋め尽くすチューリップ畑を見るには、かなり計画的な行動が必要だ。
風車もまた、現在のオランダにおいて行けば見られる当たり前の存在ではない。全盛期には1万基あったといわれる風車も、次々に老朽化で取り壊され、今ではオランダ全土に1千基程度といわれている。
またそのほとんどが、各地に1基、2基とぽつぽつ残った孤独な生き残り。唯一、このキンデルダイクが、19基とまとまった数の風車が立ち続けている貴重な場所なのだ。
地名のいわれ
キンデルダイク(Kinderdijk)とは、「小さな子供の堤防」を意味している。
子供が大勢遊ぶ土手だったということか?と思いきや、洪水の多かったこの地区、堤防ができた後にも大洪水が何度となく起こっている。そんな時に、ゆりかごが1つ流れ着いたことに由来しているとのこと。
そのゆりかごには子供が乗っていたとか、カラだったとか、猫が一緒に乗ってバランスを取っていたなど、諸説あるようだが、この地区のガイドは必ず、子供のゆりかごの話を聞かせてくれる。
世界遺産になったキンデルダイク・エルスハウト
キンデルダイク・エルスハウトは、「キンデルダイク=エルスハウトの風車網」として、1997年に世界遺産に登録された。
オランダの発展に大きな役割を果たした数千とも数万台ともいわれる風車の生き残りである19台の風車とその風景を保存していく必要性が認められたのだ。
オランダの地形
オランダは、国土の大部分が平地。そう書くと、農業に理想的な土地のようだが、実は分厚いのに軟弱な泥炭層に覆われた、肥沃とは言い難い土地だったのだ。
海面からわずかに1~2m程度の標高の湿地帯が地平線まで広がっているような土地だったという。
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干拓と運河
植民した人々は、湿原の周囲にまず堤防を作った。堤防の内側にたまった余分な水を排出する水路を作ることで、湿原を農地に変身させていったのだ。日本各地でも行われている干拓方法だ。
しかし、水の抜けた土地は激しい地盤沈下を起こし、自然な形での排水ができなくなってしまった。そのままでは、再び湿地に戻ってしまう。そこで、使用されたのが風車なのだ。
風車の動力によって、排水ポンプを稼働させ、たまり続ける水を排出し続けることに成功した。1740年頃には、灌漑用の風車が運河沿いにずらりと立ち並ぶ壮観さだったらしい。
また、そうして排出された水を流すため、大小さまざまな水路が張り巡らされた。それらは現在も、運河として豊な水量を湛えて流れている。
地盤沈下
地盤沈下の結果、ほとんどの農地は標高的に海面下となってしまった。
オランダが歴史上、度重なる大洪水の被害を受けてきたのも、大園芸国として成功したのも、風車の国として観光イメージを持つにいたったのも、全てはこの地盤沈下に始まったといえる。
風車の登場
風車はそれまでも、粉挽き・脱穀・油搾りなど、農作業に密着した動力として幅広く使用されていた。じつは、オランダが世界各地を植民地化する海運国となったのも、製材用の風車が造船業発展を助けたからだとの説もあるほどだ。
また、生活にも密着した建造物として、風車の羽根の角度で、慶弔を伝えることがあり、住居としても使われていた。
風車時代の終わり
産業革命によって、蒸気機関・電気などが次々と発明されると、風車は動力としての役割から解放されていった。古い風車は放置され、崩れ、破壊されていく運命となった。
キンデルダイクには、1000基の風車があったといわれるが、現存しているのは、19基だけ。しかし、青く深い水をたたえる運河沿いにドッシリと立ち並ぶ様は、壮観そのものだ。
観光風車
現存する19基の風車は、現在は観光用に管理されていて、祝祭日などの観光客の多い日を中心に運転されている。
内部は管理人である風車守の住居であったり、博物館だったりして、中の様子を見学することもできる。
風車のある風景は、運河から遊覧船で眺めたり、運河沿いの堤防をぶらぶらと散策したりして楽しめる。空が赤く燃える夕方、真っ暗闇に浮きあがるようにライトアップされた夜など、時間ごとの美しさを味わいたい
観光方法
周囲に風景以外に観光するものがない場所なので、観光バスやバンを使用したツアーで数時間程度立ち寄るパターンが多い。ツアーの多くは遊覧船や小さなボートでの川下りがセットになっていて便利だが、風景を十分に味わうには、堤防歩きが一番だろう。
また、ロッテルダムからキンデルダイクまで往復するクルージングツアーもあり、所要時間3時間のうち1時間の現地自由時間つき。時間短縮と観光の両方取りができる人気アトラクションだ。
できれば、自由時間をたっぷりと取れる個人での行動がおすすめだ。しかし、個人で公共交通機関を使用してのアクセスは不便な面も多いので、時間の余裕はもちろん、十分な下調べも必要だ。
観光シーズン
ハイシーズンは7、8月。19基の風車がしっかりと働いている様子を観察できる。春や秋であっても、週末や祝祭日には、一部が動いている場合があるので、要確認。ハイシーズン以外には、近隣から訪れた家族連れがピクニックや釣りを楽しむ様子が見られる。
10月から3月までは、観光地としては閉鎖されている。冬は、かなりの気温低下で観光客はほとんど訪れない。運河は凍りつき、スケートを楽しむ子供たちの姿を見かけたりする冬景色となる。
ショッピングと食事
バスを降りてすぐのところに、お土産屋などが数件。風車マークのグッズや絵葉書などはここで購入できる。
しかし、カフェやレストランはあまり期待できない。手ぶらで来ている人々は、ロンバルダインまで戻って食べる予定である場合が多い。それ以外ののんびりピクニック組は、サンドイッチなどのお弁当をしっかりと抱えてきている。
お昼時には、そこここでピクニックマットを広げる家族連れやカップル。ベンチでサンドイッチにかじりつく若者の姿を見かける。
行き方
アムステルダムまでは直行便が飛んでいる。アムステルダムから列車を使用すると1時間半でロンバルダインへ到着する。
ロッテルダムからなら約20km。ロッテルダム中央駅からロンバルダイン駅までは、列車で約10分。
ロンバルダイン駅前からキンデルダイクまでは、バスで40分ほど田舎道を走る。
周囲の見どころ
キンデルダイクからバスで1時間半ほどの「ユトレヒト」は、キンデルダイク観光とセットで訪れることが多い街だ。
世界遺産である「リートフェルト設計のシュレーダー邸」があるのもユトレヒトである。
また、ウサギのキャラクターである「ミッフィー」の作家「ディック・ブルーナ」の故郷であり、現在も在住しているため、ミッフィーの銅像やブルーナハウスなど、女子向けの見どころもある。
リートフェルトのシュレーダー邸
2000年に世界遺産に登録されたこの家は、1942年にオランダ人建築家でデザイナーでもある「ヘリット・リートフェルト」によって建てられたもの。
壁のない家をというシュレーダー未亡人の依頼を受けたリートフェルトは、面によって構成された家をデザインした。
その創造的なデザインが認められ、今も建築やデザインを学ぶ学生たちの憧れ的存在だ。
1985年にシュレーダー未亡人が亡くなるまで暮らした一般住宅だが、現在は補修されてミュージアムとして開放されている。
ミッフィーの郷
ミッフィーはオランダで「ナインチェ」と呼ばれている。「うさちゃん」といった感じの意味だ。日本語版で「かわいいうさちゃん」と呼ばれているのは、原文に忠実な訳だといえる。
ディック・ブルーナハウスのチケットは、すぐ近くの中央博物館の窓口で購入する。博物館とのセットチケットを購入することが多い。
ディック・ブルーナハウスの入り口は普通の住宅風。でも、入り口の案内看板には、しっかりと日本語の説明もあり、日本人の訪問者の多さを物語っている。
内部は、もちろんミッフィーだらけ。日本語のオーディオガイドがあり、いろいろな顔やスタイルのミッフィーを見ながら、回っていく。読書室にも、日本語オーディオがあり、絵本を見ながら音声でも楽しめる。
また、実物大ミッフィーハウスや人形たちが置かれたプレイエリアがあり、子供たちと日本から訪れた女性たちに大人気。お土産ショップでは、ミッフィーグッズではなくミュージアム限定の「ナインチェグッズ」が人気のようだ。
ユトレヒトでミッフィーを探せ!
ユトレヒトの街角には、ナインチェがあちこちに。信号機の赤青シグナルがナインチェ。銅像や看板などもあり、街を散策しながら探していると、街で擦れ違う地元の人たちが微笑みで見守ってくれる。
また、世界中でこの街でしか買えないミッフィークッキーもお土産に最適。ディック・ブルーナ御用達だというスイーツショップ「Theo Blom(テオ・ブロム」も探してみよう。
ミッフィーではないけど、「あれ?なんか似ている?」と思うようなデザイン画もあちこちで見かけるだろう。ディック・ブルーノはユトレヒトを代表するアーティストであり、いろんな場所にそのキャラクターたちが使われているのだ。
最後に
オランダに行ったら、風車を見て写真に収めなければ、旅が完成しないといわれるほど、「オランダ=風車」のイメージは強い。それだけ、キンデルダイクの人気も高いのは当然だろう。
キンデルダイクはその不便さから、風車が水路の両側で19基の風車が回るという姿を保ち続けてきた。そして現在も、その不便さにも関わらず訪れる人がいて、守ろうとする人がいるため、貴重な文化財として保護されている。
世界遺産という観光地であるにも関わらず、素朴な田舎の雰囲気を持ち続けているキンデルダイク。多少時間をかけてでも、訪れる価値がありそうだ。
そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。