宮殿のような外観を持つスーパー級公衆温泉浴場~セーチェーニ温泉/ハンガリー・ブダペスト
知る人ぞ知る、ハンガリーは温泉王国である。
その歴史は古く2000年を超え、国内の源泉数は80か所にも及ぶという。
ハンガリーに温泉が?
温泉好きを自認する日本人の間にさえ、ハンガリーの温泉情報があまり知られていなかった理由は、ハンガリーのお国事情や距離的な遠さや両国間の関係の薄さだけにあるわけではなさそうだ。
ハンガリーで温泉文化が花開いていたのは、紀元1世紀から2世紀の頃。しかし、文化として市民に広まったのは、16世紀以降のことであり、現在のように開放的で使いやすい浴場設備が整えられたのは20世紀に入ってからだという。
そのため、歴史の授業でも地理の授業でも、大きく取り上げられることはなかった。ハンガリーに温泉が湧きだしているという事実は、日本人の一般常識に含まれていなかったが、遠くハンガリーへも日本人旅行者が多く訪れるようになって初めて知られるようになったのだ。
日本とハンガリーの温泉文化の相違点
日本では温泉に限らず入浴は基本的に裸。しかし、海外では基本が水着着用。ここハンガリーでは、伝統的なスタイルでは裸だったが、近年はタオルで隠すスタイルが中心となってきている。
タオルで隠すといっても各自で持ち込むのではなく、上下を隠せる丈長エプロンを女性に、下半身のみ隠すミニエプロンを男性に、入場の際にセットで渡すことが多いようだ。すなわち、後ろ見れば「裸」。
しかし、外国からの観光客が多い施設や、都市部の大規模施設では、水着着用が義務ではなくとも、当然の習慣となりつつあり、趣にはかけてしまうが、混浴でも安心して入ることができる。
泉質は?
源泉数の数だけ異なった泉質があるが、日本人にとって馴染みのある硫黄臭や金属臭を漂わせるものが多い。
豊富なミネラルを含有していて、主に腰痛・関節痛・筋肉痛などに効果のあるものが多いようだ。飲用することは少ない。
さらに、源泉からかけ流しの場合も多いが、ハンガリー人をはじめとするヨーロッパ人が高温を苦手とするため、水温の低い浴槽が必ずあり、水で薄められていることもあるらしい。
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セーチェーニ温泉
ハンガリーの首都ブダペストにあり、観光客にも市民にも人気のある温泉が「セーチェーニ温泉」である。
19世紀のハンガリーの革命期に活躍した自由主義貴族「セーチェーニ・イシュトヴァーン」の名前からとられている。
ヨーロッパ最大の温泉であり、その立地のよさ、壮大さ、源泉からの湧出量の多さなどすべての面で「スーパー級」としても知られている。
セーチェーニ温泉オープン
1913年にオープンした後、1927年には大幅に拡張され、露天風呂が3か所、屋内風呂が15か所の現在の規模となった。
その後も、建て増しや設備投資は続けられ、1938年に再び大がかりな拡張工事が行われたが、その際に偶然掘り当てたという第二の源泉のおかげで、現在も全ての風呂に豊富な温泉を配することができている。
入浴スタイルは?
基本的に混浴。ほとんどの人が水着着用で入浴している。
また、浸かるだけでなく体を洗う場所もあるが、水着を脱いだり着たりする必要があり、少々不便だ。
更衣室も基本的に男女混用。キャビンと呼ばれる小さな個室を借りて着替えると料金が少し高くなる。
着替えてロッカーに荷物を入れたら、ブラブラと温泉めぐりをスタートしよう。
内湯の温度
15か所もあるが、引かれている湯の源泉は同じ。泡風呂や寝風呂といった変化も特にはない。違いはわずかに異なる湯温、風呂のサイズ、深さだ。
基本的に、入り口に近いところは湯温が低めで、進んで行くと高めに設定されている。
混み具合と汚れ具合と濃度
一般的に日本人には熱い風呂好きが多いのに対し、ハンガリー人は温めが好みらしい。そのため、温い風呂にはより多くのハンガリー人が沈んでいる。当然、湯の汚れ具合も温度に関係してくるというわけ。
そのため、多くの日本人は入り口付近の温く混雑した内風呂はスキップし、温度設定の高く空いている風呂へと向かう。
高めの設定とは言っても、40度を超えることはない。日本の風呂の温度としては決して高くない温度である。
さらに、温めの温度を作るために水を加えているのかどうか、漂う硫黄臭や金属臭も、入り口付近では弱く、熱い風呂のほうが濃い。
プール三昧
セーチェーニ温泉の醍醐味はなんといっても、露天風呂の大きさ。
3つあるうちの中央のものは、最初から「泳ぐ」ための温泉プールだが、それ以外の2つは一応浴槽とされている。しかし、その大きさは半端ではない。
浸かる外風呂の中心部にはジャグジーがあるが、この風呂は縁の部分こそ浅くなっているが、中央へ向かうと水深150cm近くになる。身長の低い人は、泳いで行かなければジャグジーに到達できない。
また、ブダペストのほとんどの温泉では14歳未満が入浴できない。ただし、温泉プールの利用はできるため、入り口や入場券は、内湯と外湯(プール)のセット、または外湯のみの2種類あることが多い。
セーチェーニ温泉名物
一つは温泉チェス。
外風呂の縁を使い、白黒のビニールシートを敷いてプレイするチェスは、ここでの有名な光景。腰まで湯につかったおじさんたちが、周囲からの野次やアドバイスに答えながら、ゲームを楽しむ。
もう一つは、夕方以降に多く出没するカップルの姿。水着姿で密着する姿は、日本人の目には少し刺激が強く、視線のやり場に困るかもしれない。
建物も
セーチェーニ温泉の歴史は100年と、市内の歴史的建造物に比べれば浅いが、それでもその建物の荘厳さ、内部の装飾の素晴らしさは、とても公衆浴場とは思えない豪華さだ。
ついつい、老若男女の半裸(水着姿)ばかりに目がいってしまいがちだが、西洋の浴場でよく見られるさまざまな銅像やモニュメントも見逃さないようにしたい。
持ち物
水着は自分のものを持っていこう。広いところを歩き回る上、露店風呂も使用するなら、ビーチサンダルもあると便利。
タオルやドライヤーはレンタルできるので持ち込まなくても大丈夫。
それぞれ、タオルレンタル料やキャビン使用料はさほど高くないが、デポジットが必要だ。しかし、このデポジットは使用後に返却される。
ブダペスト近郊のそのほかの有名温泉地
ゲレルト温泉は、高級ホテルを敷地内に持つ超豪華温泉施設。
1918年に作られた、大理石をふんだんに使った高級感あふれるアールヌーボースタイルの建物には、モザイクやステンドグラスがはめ込まれている。
施設の豪華さの割に入浴料はお手軽設定なのが嬉しい。
ヴェリ・ベイ・トルコ温泉は、1570年代に建てられたトルコスタイルの温泉施設だが、大規模な修復が行われて最新の設備が次々に導入されている。
ドーム型のトルコ風呂は、室内が薄暗く浴槽内に照明があてられたムーディーな感じ。
通路や浴室の片隅には、実際にオスマントルコ時代の風呂跡から発掘された小物類が展示されていておもしろい。
最後に
ハンガリーまで出かけて温泉めぐり? と思うかもしれないが、日本とは一味も二味も違う、異国情緒たっぷりの温泉施設はどれも一見・一浴の価値がある。
のんびりと半日から1日かけて、旅の疲れを癒してもいいし、観光の1つとしてその豪華さを眺めて汗を流してくるだけでもいいだろう。
ほとんどの温泉施設は、年中無休で早朝から夜まで営業し、日本のスーパー銭湯程度の価格で入場できる。
ハンガリー人と裸のつきあいをしてみるのも、旅のいい思い出になるかもしれない。
そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。