砂漠に乱立する墓標ピナクルズと砂漠サファリ~ナンバング国立公園「Nambung National Park」/オーストラリア
オーストラリアはアジアともヨーロッパともアメリカともアフリカとも違う。だからといって、世界に散らばる星の数ほどもある島々とも確実に違う。
独自の文化、独自の自然を持つオーストラリアには、ちょっとやそっとでは感動したり驚いたりしなくなった旅の猛者をも唸らせるような、変わったものたちが満ち溢れているようだ。
ナンバング国立公園の見どころは
その「不気味さ」にある。
赤茶けた荒野が四方の地平線まで続く中、ボンボンと地面から飛び出した巨大な岩が、まるで巨大生物の墓石のように立ち並んでいるのだ。その名も「荒野の墓標」。
その墓標のサイズは数センチのものから4mを超えるような大きさのものまであるが、どれも長年風雨にさらされた結果。地面からニョキっと顔を出した芋虫の頭か、はたまた生き埋めにされた巨人の指先のように丸っこい。
どこまで行っても、奇岩が続く地面からの景色は、何やらゾゾっと背筋を冷やすものを感じる。周囲の気温がいくら砂漠並みの高温で乾燥しまくっていてもだ。
また、これをセスナなどを使って空から見ると、鳥肌ものでもある。自然による素晴らしい造形ではあるものの、平たい地面にボツボツとイボのように並ぶ丸い岩は、トライポフォビア(ブツブツにゾクゾクする病気)を発症しそうな景観を作りだしてもいるのだ。
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どうやって出来上がったのか?
地面に飛び出た大量のイボはどうやって出来上がったのだろうか?
太古の時代に貝殻が堆積してできた石灰岩の層があり、そこにさらに長い歴史をかけて原生林が作られた。しかしそれもまた枯れて風化し砂漠化が進んで風雨が浸食した結果、固い部分だけが残っていった。その残りというがこの奇岩なのだ。
この岩が木の根? このブッシュが原生林? 砂漠が貝殻の層? とすべてが不思議な自然の転生のなれの果てだと考えると、感動できる部分もある。
また、見ようによっては、巨石文化? と思えなくもないが、一定間隔ではないが、つかず離れず存在しているその奇岩たちの存在パワーはすごい。パワースポットとして訪れる人も増えている。
ピナクルズは三十三間堂?
京都の三十三間堂の千体の観音様、すべての顔が違っていて、必ず自分に似た顔が一つはあるともいわれている。
実はピナクルズでも、奇岩たちが人の顔や動物の姿に見えるという。さすがに、観音様と違ってベースが人の形ではないため、自分に似ている奇岩を探すのは無理でも、「これは猿っぽい」とか「怒った顔?」といった楽しみ方はできる。
さらに風化が進む
ナンバング国立公園内はさらに砂漠化が進んでいるという。今そこにある奇岩もいつまで岩としての形を保っていられるか分からない。
今日は猿に見えた岩も、次に訪れた時には豚になっているかもしれない。ただ、見渡す限りの奇岩たち、目印をつけることができないため、次に訪れた時に、同じ岩を見つけることが難しい。
ある意味、いつ行っても何度言っても新鮮な「ゾゾっ」を味わえるわけだ。
砂についた足跡でほのぼの
オーストラリアの砂地にはそれほど危険な生き物はいない。特に、巨大な猛獣はいないので、ガイドなしでのウロウロ歩きも、迷子さえ気をつければ可能だ。
そんな散策での楽しみは、足跡。乾いた砂地には、カンガルーの足跡と尻尾を引きずった跡が残っていたり、これはひょっとして蛇? とか、大きな鳥の足跡、哺乳類っぽい4足動物の足跡などを見かけることができる。
風が吹けばあっという間に消え去ってしまうし、観光客が歩き回れば見えなくなる。朝一番に訪れた人だけが味わえる楽しみだ。
砂丘で四駆サファリ
パースからのツアーには、ただナンバングを観光するだけでなく、冒険好きなオージーたちを惹きつけるスリルもプラスされている。その一つが4WDツアーと呼ばれるもの。
大きなツアートラックバスが四駆になっているらしく、普通なら入っていかないだろう砂丘にズンズンと侵入し、「ええっ」と思うような急坂を「やめてくれ!」と叫びたくなるようなスピードで下りては砂煙をあげて止まり、Uターンしてグオングオンと上るという砂漠サファリを体験できる。
観光バスでそんな体験をするのは、道を外れて事故に遭った時くらいのはず。車体が斜めになり、前の座席の背もたれに両手をついて体を支えたくなるような急坂下りには、ジェットコースター以上のスリルを味わえること請け合いだ。
砂丘でサンドボード
4WDツアーは確かに楽しいしスリルもあるが、バスは運転手にお任せの冒険だ。一方で、自分で直接そのスリルを味わう方法もある。
自前の4WDを持ち込めればそれもいいが、運転技術も必要。砂漠ではまって動かなくなってもすぐには救助してもらえない。
そこでおすすめしたいのが、サンドボーディング。それは何かというと、スノーボードは雪の上、サンドボードは砂の上で滑るといえば想像できるだろう。
フワフワの新雪よりもさらにサラサラの砂をボードに乗って下りていく。靴の服も頭の中も砂だらけにはなるが、選んだ坂によっては、かなりのスリルを味わえる。ただ、リフトはないので、滑り下りた後は、ボードを抱えて自力で上る必要がある。
ボードをわざわざ持ち込まなくても、ソリや段ボールでも十分に楽しめる。
おすすめ訪問タイミング
ナンバングのピナクルズはまだまだ世界的にはそこまで知られていない。だから観光客は多くない。それでも、昼近くになると、四駆のバスに乗り込んだツアー客や、パースから日帰りで遊びにきた地元っ子たちも現れる。
でも、ピナクルズの墓標の不気味さは人の気配がない時のほうが感じ取りやすい。できるだけ朝早く、できれば朝日が昇る頃には到着しておきたい。
そうすれば、見渡す限りの砂丘もボツボツも、朝焼けする空も、そして、ゾゾっとするような「荒野の墓標」の景観だって一人占めだ。
アクセス方法
オーストラリアの西海岸に位置する都市パースからはほとんど1本道。旅人がレンタカーを走らせても迷うことはまずない。
距離は北に250km。時間にして3時間半ほどなので、十分日帰りできる。
車がない場合、公共の交通機関はあてにできない。パース発のツアーに参加することになる。その場合、自分で運転する必要がないことや、四駆バスでの砂丘ドライブというスリルを味わえるという長所がある一方で、朝焼けや夕焼けタイムといった、希望する時間に現地に入れるとは限らないという短所もある。
最後に
パースから日帰り圏内にはほかにも世界遺産ランクの観光地が点在している。ただ、それらをツアーで一気に回るなら、キャンピングカーかテントを積み込んで数日から数週間単位の旅になる。なぜなら、それぞれの観光地は離れていて、さらに十分な宿泊施設を持たないのだ。
そのため、行きたいところを一度に一か所ずつ、ツアー参加やレンタカーで訪れることになる。もちろん拠点となるのはパースだ。
パース自体も、美しい町なので滞在は楽しい。周辺の観光地へのツアーもたくさんあり、日本人滞在者が多いため、日本語ツアーも少なくない。
ただ注意したいのは、オーストラリアでは近いといっても200km、300km離れているのは当たり前だということ。そして、オーストラリアの自然は想像以上に過酷だということ。
十分な滞在期間を予定し、余裕のある日程を組んでおかないと、せっかくの不思議や驚きが全て疲労や落胆に変わってしまいかねない。
オーストラリアの驚異を味わい尽くすには、経済力以上に体力が必要というわけだ。
そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。