聖書の世界に囲まれて~カーリエ博物館に行ってみた感想

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聖書の世界に囲まれて~カーリエ博物館 (コーラ修道院付属ソーテール聖堂)

トルコ・イスタンブルの旧市街西に位置する、「カーリエ博物館」の印象は、外側と内側では大きく異なる。

目立たず地味、こぢんまりとしている、雑な作り。カーリエ博物館を外から見た感想にはそんな言葉が混じる。しかし、近づいて一歩中へ入ると、その言葉はすぐに忘れられてしまう。壁や天井、所せましと描かれたモザイク画やフレスコ画に、誰もが圧倒されるのだ。

どことなくいびつなところが親しみやすい博物館

カーリエ博物館は、多くの観光バスが並ぶ壮麗な大規模名所とは一線を画し、郊外の住宅地に静かに存在している。

正式名称を、「コーラ修道院付属ソーテール(救世主)聖堂」といい、コーラ修道院は6.7世紀頃に設立されたと考えられている。

現存している建物は、東ローマ帝国時代の11~12世紀に建設された修道院を基礎としていて、その後の増改築によって、今日の姿に近づいていった。

特に14世紀に行われた増改築では、内外にナルテクスが作られ、建物の玄関となる部分が加えられた。ほかにもいくつかの礼拝堂が増築されたが、監督者が政治家であり学者だったこと、設計が全体のバランスを十分に考えたものではなかったことなどから、結果として建物全体のバランスは崩れ、どことなくいびつな建築物となってしまったようだ。

街外れでも小規模でも逃れられない宗教争い

アジアとヨーロッパの境目に位置し、海上交通の要所として、紀元前から都市として成立していたコンスタンティノープル(イスタンブル)は、古代ギリシア・古代ローマ・ローマ帝国・東ローマ帝国(ビザンツ帝国)・十字軍・オスマン帝国と、長い歴史の中でその支配者を替えてきた。

街には、それぞれの時代の文化や宗教を物語る遺跡や建築物が多く残されていて、現代の観光客たちを惹きつけ続けている。それは、郊外の田舎に立つカーリエ博物館もまた、例外ではない。

オスマン帝国が東ローマ帝国を滅ぼした、1453年の「コンスタンティノープルの陥落」によって、コンスタンティノープルはイスタンブルへ、市内の教会や聖堂はモスクへと変わっていった。

イスタンブルの多くの宗教的建造物の例にもれず、コーラ修道院も、モスク「カーリエ・ジャーミー」と名を変え、聖堂内部の装飾は漆喰によって塗り隠されてしまった。13~14世紀に描かれた素晴らしいフレスコ画やモザイク画は、再び日の目を見る20世紀まで、こうしてひっそりと壁の中に埋もれて守られていたのだ。

1958年、ビザンティン研究所による復元作業を終えたカーリエ・ジャーミーは、宗教的役割を離れ、博物館としてのスタートを切り、今に至る。

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ビザンツ(ビザンティン)美術の最高傑作で覆われた内部

カーリエ博物館の魅力は、その素朴な外観と素晴らしい内部の装飾とのギャップにあるといっても過言ではないだろう。

博物館内部は、建物の壁や天井に描かれた、ビザンティン美術の最高傑作といわれるモザイク画やフレスコ画で覆われている。

それぞれが、その美しさに加えて、聖書を元とするストーリー性の高さを兼ね揃えた作品であり、モザイク画は180以上、フレスコ画は80以上のシーンを描き出している。

聖書を知る人も知らない人も感動できる奇跡的美しさ

700年以上前に描かれた装飾絵画たちは、美術作品としての価値や宗教的意味を十分に理解できなくとも、その表現しようとするところが伝わってくる構成となっている。

壁沿いに内部を見学して行くうちに、当時の人々が信じていた宗教像がおぼろげながら見えてくる。一つの物語として見ても十分に感動できるので、宗教画であることにこだわらずに楽しみたい。

ビザンツ美術(ビザンティン芸術)とは?

カーリエ博物館内の作品は、ビザンツ美術の最高傑作と評されることもあり、芸術的価値も高い。

ビザンツ美術とは、5~15世紀に渡る長い東ローマ帝国の歴史の中で育まれ、発達した美術体系のことをさす。

古代ギリシア・ヘレニズム・ローマの流れを受け継いでいるが、東方やキリスト教の要素を同時に多く取り入れた点が、西ローマや西ヨーロッパの文化との大きな相違点である。

イスタンブル内に残る多くの宗教的建造物に描かれたモザイク画は、その重要な遺産であるわけだ。

オスマン帝国による東ローマ帝国の滅亡によって、皇帝の戦勝記録などが描かれた世俗的モザイク画のほとんどは破壊されてしまったが、宗教画の多くは失われずに残っていて、今も我々の目を楽しませてくれる。

制圧した帝国内の異文化に対し、柔軟な姿勢を保ったオスマン帝国の政策も影響しているのかもしれない。

カーリエ博物館を代表する作品たち

カーリエ博物館内部を装飾する作品は、3つのグループに分けることができる。

第1のグループである、正面入り口部分の「外ナルテクス」で見られる装飾は、キリスト(ハリストス)の生涯を描いたものだ。聖母マリアの夫でキリストの養父であるヨセフの夢から始まり、キリストの降誕、奇跡の数々などがストーリー仕立てで分かりやすく描かれている。

外ナルテクスの内側の第2グループ「内ナルテクス」では、キリストの系譜が示され、主に聖母マリアを主題とするモザイクで、壁や天井が埋められている。キリストの母としてのマリアだけでなく、幼女時代のかわいらしい姿も描かれていて、その珍しさに興味をおぼえる。

聖堂内部へと足を進めると、天使が見守るマリア最期のシーンで、キリストがマリアの霊が宿る幼女を抱いている興味深いモザイク画がある。ほかのモザイク画グループと比較すると保存状態が悪く、欠落している部分の多いのが残念だ。

建物の南にある第3グループの礼拝堂「パレクレシオン」では、フレスコ画の装飾が見ものだ。ビザンツ美術の傑作中の傑作として知られる「復活」は、天井近くの半ドーム部分に描かれ、キリストがアダムとイブ(エヴァ)を引っ張り上げる図となっている。

中央天井部には、「最後の審判」の図が描かれ、キリストが天国行きと地獄行きの魂を選り分けている。我が身を振り返り、自分の行き先をついつい想像してしまいそうだ。

3つの作品グループを順に見て行くと、聖書に描かれた物語の大筋をつかむことができるようになっているのが分かる。

その分かりやすさから、これらの絵画が聖堂を装飾しつつ、布教のテキストとしての役割も果たしていたのだろうなと想像される。

世界遺産「イスタンブルの歴史地区」の一部として

イスタンブルの歴史地区は4つの保護地区からなり、カーリエ博物館は「大城壁地区」と呼ばれる保護区に含まれている。

近くにある、大城壁地区に含まれる世界遺産「テオドシウスの城壁」は、イスタンブル旧市街を覆う大規模な城壁だ。5世紀のテオドシウス2世の治世に、コンスタンティノープルを外敵から守るために建設が始められた。一定間隔に並んだ塔、内壁・外壁の二重構造、外側に巡らされた堀により、鉄壁・難攻不落を誇ったという。

城壁は、その歴史の長さから考えると、奇跡的なほど現在もその姿をとどめている。ただし、ところどころでは荒廃がすすんでいたり、道路拡張によって大きく削られた場所もあり、「世界遺産が!」、とショックを受ける部分もある。

暮らすのは猫、訪れるのは欧米人

イスタンブルの各地で良く見かける猫。ここでも人懐っこい猫が気ままに生活している様子がみられる。

博物館前の小さな広場には、土産物屋があり、ちょっとした休憩に使えるカフェもあるので、猫たちと一緒にくつろぎたい。

博物館の周囲は普通の住宅街だが、多くの家が現代風にモザイク装飾されているので、ぶらぶらと散歩をしながら見るのもおもしろい。

カーリエ博物館は、小規模なせいか日本人観光客の姿は少なめ。一方で、欧米からの観光客には人気があるらしく、時折団体客でいっぱいになることもある。

見学は1時間程度で可能だが、欧米の、それもキリスト教徒にとっては、1日いても足りない魅力が詰まっているとのこと。文化的な違いを感じさせられる。

アクセス方法

郊外だけあって、交通の便はあまりよくない。道路が整備されているため、タクシーが便利で快適だ。ただし、場所柄、帰りのタクシーはなかなかつかまらないこともある。

運行路線の分かりにくさで敬遠されがちだが、バス便もあり、行き先をドライバーや同乗者たちにアピールしておけば、降りる場所は教えてもらえるだろう。

注意事項

定休日がある。はるばる出向くにあたり、無駄足とならないように気をつけよう。また、営業時間も短めで、季節によっては夕方早くに閉まってしまう。

見学そのものは、短時間でも可能。ただし、タクシードライバーの親切で強引な観光案内や、バスの乗り間違いなど、まっすぐたどり着けない可能性も考え、余裕をもったスケジュールを組むと良い。

ほかの観光名所のように、チケット入手や入場に時間を取られることはまずない。また、ミュージアムパスも使用できる。

最後に

イスタンブルには、カーリエ博物館のように、キリスト教とイスラム教の争いに翻弄された建造物が多い。

それらの中でも、郊外の不便な場所にあり、規模も小さなカーリエ博物館の魅力としてあげられるのが、建物内部のモザイク画とフレスコ画による装飾の美しさ、そんな内観といびつで素朴なたたずまいの外観とのギャップ、時の権力の影響をあまり受けず、保存状態が良いことの3点だ。

不便さや地味さから訪れることをためらった人も、たどりつくのに苦労した人も、訪れた後には口をそろえて絶賛する「カーリエ博物館」。

そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。

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