仏さまと神様が同居する手掘り石窟群~エローラ石窟を訪れて

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仏さまと神様が同居する手掘り石窟群~エローラ石窟「Ellora caves」/インド

垂直に切り立つ崖に掘られた34の石窟。5世紀から500年以上にわたって掘り造られ、仏教、ヒンドゥー、ジャイナ教などの仏や神への祈りの場となってきた。その多様性からは、この地方における宗教の移り変わりや、それに伴う文化の変化も見て取れる。

土や岩を固めて重ねて造り出した建造物ではなく、土や岩の中から削り出した姿は、その精密な模様や彫刻、絶妙なバランス、意匠の多様さなど、どれをとっても神業レベルとしかいいようがない。アジャンタ石窟寺院のような華やかさはないものの、その彫刻のレベルの高さでは勝っているというのが、研究者だけでなく訪れすべての人の感想だ。

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エローラ石窟の特徴

エローラの石窟寺院の特徴は、崖の表面には入り口だけを作り、その内部に掘った大きな空間の中に寺院や修道院を造りこんだことにある。仏像は外からは見えない構造となっていて、内部は薄暗く瞑想に適した空間が保たれている。また、大きな空間よりも、小さく区切られた小部屋が上下左右に多く作られているのも特徴的だ。

34の石窟は、エローラの崖の東側から順に掘られていったため、東に仏教寺院(12番まで)、途中にヒンドゥー寺院(13~29番)、西にジャイナ教寺院(30~34番)とつながっていく。それぞれの宗教観が東から西へと移り変わっていく様がおもしろい。

仏教寺院は内に籠る暗く静かで厳かな雰囲気をたたえ、内部も小さなコンパートメントに分かれている傾向が強い。それがヒンドゥー寺院の時代になると入り口が大きくとられて内部は明るくなり、広々としたホールも作られるようになるほか、石像や彫刻そのものも華やかになっていく。最終的にジャイナ教の時代には、石窟寺院はよりオープンな造りとなり、入り口ではなく門から入り、神殿そのものが外から見通せるスタイルへと変化していく。

石窟の大きさは東が大きく西へいくほどに小さくなっていくが、そのデザイン性の高さは増していき、新しさだけでなく美しさの観点も、はっきりとした違いを持っているのが分かる。

しかし、エローラ石窟の特徴は何をおいてもこれらすべてが「手掘り」であるところだ。職人たちや信者たちが、ノミとツチを使ってコツコツと何十年から百年もの年月をかけてこれだけの建造物すべてを掘りだしたことこそが奇跡なのだ。

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10番ヴィシュヴァカルマ石窟

仏の遺物を祀るストゥーパのある寺院で、仏教寺院でありながらヒンドゥー的な細かい神(仏)の掘りこみが多い。またそれらの保存状態も良く、人気の高い石窟の一つだ。日本の仏教寺院では見かけることのない夫婦や家族の姿の神(仏)のレリーフが珍しい。

ストゥーパは内部に当然岩から掘り抜く形で作られている。ストゥーパの前には大きな仏像が置かれているため、正面からはストゥーパの上部しか見えないのも変わっている。

ストゥーパの堂は幅の狭い奥行のあるスペースで、両側には石柱が立ち並び、その上にはおびただしい数の小さな仏像が彫られ、さらにそこからドーム型の天井が掘られている。天井にはくじらの骨のような梁まで掘りだされている。

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12番ティーン・タル石窟

仏教系の修道院のような存在で、僧侶たちの住居を兼ねた修行所として作られたもの。階段を上り、厚い岩の壁を切った門から内部へと入る。

高さ20mほどの岩に3階分の層を造り、さらに細かく部屋に区切っている。通路に当たる部分では壁も床も天井もツルツルに研磨されてはいいるが、目立った彫刻はなく至ってシンプル。瞑想や祈りの場には、滑らかな肌を持つ仏像たちが彫られている。ただ、凝った装飾は施されず、仏像の多くもまた目を閉じて静かに瞑想しているポーズだ。

ほかの石窟に比べると非常に地味だが、仏教寺院らしい落ち着きはここがもっとも濃い。ただし、今は地味な仏たちも建造当時は赤や黄色に彩色されていたため、今の姿は必ずしも正しい姿ではない。この寺院は遺跡としてではなく、今も僧侶が暮らし祈りを捧げていてもおかしくない「観光用」ではない「本物」の雰囲気を漂わせている。

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16番カイラーサナータ寺院

この寺院だけは、ほかの寺院群と明らかに様相が異なっている。まず、東の仏教石窟寺院のような入り口はなく、開放的な門や石柱が正面に立ち、天井のない通路によって奥へと導かれる。

塔も門も壁も全ての「面」にレリーフが掘りこまれている。象の姿が多いところからもヒンドゥー教の寺院であることをいやでも感じるだろう。

塔門をくぐるとナンディー堂と前殿があり、早速大量の神々に迎えられる。祀られている神の中で中心となっているのはシヴァ神だが、さまざまな神々がいたるところに掘られていて、研究者でさえすべてを言い当てるのは不可能なほどだ。特に前殿の左右わきの壁にあるラーマーヤナとマハーバーラタを題材とするレリーフは、そこだけでも数百の神と人とが掘りこまれている。

この寺院はヒンドゥーの創造神がシヴァのためにたてさせたものだという。そしてその出来上がった姿に、作らせた本人が感動して身を震わせたという伝説まで残っている、高さ32m奥行80m幅60mという巨大さ、壁という壁をすべて覆い尽くす彫刻と壁画。その神をも驚かせる美しさには圧倒される迫力がある。

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32番チョーター・カイラー・サナータ神殿

ジャイナ教の神殿は優美さが特徴。立ち並ぶ天井を支える石柱も丸みを帯び優しい曲線で装飾され、天井を見上げれば巨大な花のレリーフが掘りこまれてもいる。その優雅さは確かに寺院ではなく「神殿」だ。

神殿そのものも大きくはなく入り口も狭いが、内部は意外と広く感じられるのは、奥行が深いせいだろう。天井部分は前部が取り除かれているため、神殿内部まで明かりが届き、優美な彫刻の数々もはっきりとライトなしで見ることができる。

本来は神が存在しない無神論のジャイナ教だが、ヒンドゥー教の影響を受けて、多くの官能的な神を造り出した。やわらかな曲線を持つ女神の体は信者や観光客に撫でられたせいかテカテカと光っている。

仏教、ヒンドゥー教の石窟から少し離れた位置にあるため、ジャイナ教の神殿群まで足を伸ばさずに帰ってしまう人も多いが、そのインドとローマ風が混ざったような不思議な美しさは一見の価値がある。

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エローラ石窟を上から見下ろすポイント

石窟群の中央あたり、16番目のカイラーサナータ石窟の横から石窟群が掘られている台地の上へと上る小道がある。ほかにもいくつかのポイントがあるが、ここが一番上りやすいらしく、道ができているのですぐわかる。ただ、雨期には足元が危ないので避けたほうがいいかもしれない。

30mほどの高さを登りきると、石窟寺院の壁の上に立つ形になる。安全柵などは一切なく、そこに座って足をゆすればハンプティダンプティ状態だ。高所恐怖症であれば、岩が切り落とされている縁まで近づくなど考えもしないだろうが、石窟寺院群をほぼすべて見下ろすことができるとあって、ギリギリのところまで足を進める人が多い。写真撮影には絶好のポイントだ。

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最後に

岩を掘りだしたものの多くでは、建物だけでなく仏像たちもその腕や牙などを失ってはいても、姿かたちを残している。ただし、壁や天井を覆っていたとされる壁画のほとんどが消えてしまった。同じくインドの世界遺産となっているアジャンタ石窟に見られるような極彩色の壁画がここにもあったとされるだけに残念だ。

宗教の違いは人の心に大きな影響を与える。仏教に続いてヒンドゥー教がその地を席巻したとすれば、仏教寺院は破壊されたり、ヒンドゥー風に作り変えられてもおかしくなかった。キリスト教の教会とイスラム教のモスクとが通ってきたそんな道を、ここは通らなかった。3つの宗教が歴史の中で存在したが、それぞれの存在を消し去ることなく残し、新しい宗教のための寺院を新しく作っていった。ここに、今も残るインドの大らかさを見る気がする。

そこを訪れた人しか感じることのできない感動を、写真、動画、そして言葉で表現してみませんか? あなたの旅の話を聞かせてください。

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